[モノめぐり・モノがたり] 北海道の自然・風景を手漉き和紙に映して:北の紙工房 紙びより
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更新日:2016.12.13

ひとつのモノが生み出される背景には、
きっとそのモノだけが持つストーリーがあるはず。
札幌、北海道で見つけたプロダクトを紹介するシリーズ。
今回は市内厚別区にある「北の紙工房 紙びより」を訪ねました。
手仕事のぬくもりを感じる、様々な表情の和紙と出会えます。
■手漉き和紙、独自の作品がいろいろ
日本の伝統工芸のひとつ、手漉(す)き和紙。札幌にその和紙をつくる工房があると知り、訪れてみたくなりました。そこは、「北の紙工房 紙びより」。
JR森林公園駅のほど近く。一軒家工房の玄関先で、見たことのない植物を目にしました。なかにおじゃましてさっそく聞いてみると、それはトロロアオイといって、紙を漉くときに必要な、ネリと呼ばれる粘液が採れる植物だとわかりました。教えてくれたのは、和紙作家・和紙職人の東野早奈絵(とうの・さなえ)さん。2012年12月に紙びよりを開き、活動しています。
工房にはショップが併設。大きな白い和紙、色や柄のついた和紙。和紙はがき・雑貨が並びます。
▲デザインされた和紙は、ランプシェードに使ったり、額に入れてインテリアとして飾ったりも
はがきには、いろいろな種類が。「ゆきふみ」は、雪の上に続く足跡をデザインしたシリーズ。ふわりとした手漉き和紙の質感、踏みしめた足跡のでこぼこ。まるで本物の雪のよう。1枚の白の世界に、手にとった人それぞれのなかにある情景が広がっていくのではないかと感じさせます。
▲ほこほこした感触の「ゆきかみ」シリーズ(左)は、漉き込んだ色紙の模様も様々。代表作「ゆきふみ」シリーズ(右)は、あしあと・おやこ・ふたりなど5つのデザインで展開
▲光を通すとあしあとが浮かびあがりまた違った印象に
また、「北のおたより」シリーズには、ラベンダー、コーヒー豆、とうきびの実が漉き込まれています。ラベンダーは北海道で咲いたものだそう。送る人に香りも一緒に届けられます。
▲「北のおたより」。コーヒー豆(左)とラベンター
東野さんは手漉き和紙の魅力を、こう話してくれました。
「一言では難しいですが、かたち、厚さ、風合い、あたたかに、涼しげにと、多彩な表現が可能なところでしょうか。つくる工程でもいろんな表情が出て、私自身、驚きながら手こずりながらつくっています」。
■北海道で育った植物でつくる「蝦夷和紙」
和紙の主な原料はクワ科の低木、楮(こうぞ)の樹皮の繊維。その楮や、ネリの原料となるトロロアオイ。北海道では古くから和紙の主な原料とされてきた植物が育ちにくく、また、和紙文化が根付いていない土地です。
紙びよりの和紙のなかには「蝦夷和紙」も並んでいます。「せっかく札幌を拠点に活動するのだから、北海道の植物で和紙をつくってみたい」。そんな思いから東野さんは、2013年に「蝦夷和紙プロジェクト」を立ち上げます。
▲話を聞かせてくれた、和紙作家・和紙職人の東野早奈絵さん
原料となるのは、強い繊維をもつ植物。毎年ひとつの植物をピックアップし、採取して繊維を取り出し、数々の工程を経て、紙を漉くことができる状態になるのだそうです。
プロジェクト1年目は、アイヌの人々が着物をつくるために用いたオヒョウニレ。2年目は笹、3年目は白樺と麻、そして今年2016年はイラクサ。生まれた和紙はそれぞれ表情が個性的で、力強さも感じられます。
▲楮からつくられるのは白い和紙。写真下が「蝦夷和紙」シリーズのはがき。左からオヒョウニレ、白樺、笹、イラクサ
▲フレームに入れて飾っても素敵。エゾシカの革を扱う作家さんとのコラボで「わしか」シリーズも誕生。カードケースなどの雑貨があります
東野さんは、自身のブログやfacebookを通じて思いを発信。その思いや呼びかけに応え集まった人たちとともに、北海道の素材で和紙をつくる挑戦を重ねています。
■自然の素材からつくられる和紙。北海道でその魅力を伝えていく
教員を経て上京し、雑貨ショップに勤務。東野さんは雑貨の企画デザイナーをめざそうとするなかで、もともと心にあった「自分の手でつくったものを人へ届けたい」という思いを強くします。
「図書館で開いた本に、生成りのきれいな紙をみつけて。それが越前和紙だったんです」。様々な工芸のなかから和紙を志した東野さんは、1500年という長い歴史をもつ和紙の産地、福井県越前市の工房で5年間紙漉きを修業。2012年に地元・札幌に戻り、和紙文化のないこの地で挑戦のスタートを切りました。
「和紙が好きという方、出会った方々が活動を見守ってくれています」。和紙づくりに不可欠なトロロアオイは、そうした人たちが畑で育ててくれているのだそうです。
▲こちらがトロロアオイ
和紙を、その魅力を広く伝えたいと、蝦夷和紙プロジェクトに取り組んだり、工房をはじめ様々イベントで紙漉き体験のワークショップも開いたりしている東野さん。工房では随時、体験を受け付けています。
「北海道に和紙があることを知ってもらい、見てもらいたいですね。自然のものからつくられる和紙にふれたり、自分でつくってみたりすることで、愛着を感じたり、普段何気なく捨てている紙を見直したりというところにもつながるのかなと。和紙は生活の必需品とはいえないけれど、とっておきの手紙を書いたり、ほっと一息つく時間に愛でていただいたり、いまの時代に必要な活躍の仕方があるんじゃないかなと思っています」。
思いのこもる東野さんの手から生まれる和紙は、手にする人・見る人をやさしい気持ちにさせてくれます。
▲素材と自分と日々向き合い、丹精して和紙を生み出す東野さん。桁(けた)という道具を使って一枚一枚漉きあげます
【イベント情報:札幌スタイル・パサージュ2016】
札幌スタイルの認証製品をもつ作家さん・企業から17ブースが出展する「札幌スタイル・パサージュ」が、12月20日から25日に開催されます。
紙びよりも出展し、手漉き和紙のクリスマスカードを中心に展開するそう。また、会期中の21日・24日(各10時30分〜12時)には、手漉き和紙のキャンドルライトをつくるワークショップも実施されます(参加費2,700円/事前予約制・申し込みは紙びよりへ)。
ぜひ、お出かけください!
●2016年12月20日(火)〜25日(日) 10時〜19時 ※最終日16時まで
●会場:大丸藤井セントラル7F(札幌市中央区南1条西3丁目) ●入場料:無料
■北の紙工房 紙びより
札幌市厚別区厚別北3条5丁目33-5
011-891-8424
営業時間:10:00〜18:00
定休日:火曜日(イベント等で臨時休業の場合あり)